ガロア祭体験記

はじめに(ガロア祭とは)

先日ガロア祭というものがありました。ガロア祭というのは京都大学の数学教室が開催している数学専攻について知ってもらうためのイベントらしいです。そこでは毎年懸賞問題が発表されていて、その懸賞問題で優秀な成績を残すと表彰されます。

今回僕はガロア祭で金賞(つまり総合1位!)という結果を残すことができました!!

これが報告のツイートです。ふぁぼがとても多いです。ガロア祭の知名度が予想以上に高かったことに驚きました。これからは僕のコンテンツ力も多少なりとも上がることになるでしょう。

 

ところで、優勝したらその名誉以外にも何かしらの景品がもらえます。それは

の2つです。

数学セミナー1年分については、住所を教えることで郵送してもらえるらしいです。これで僕はこれから1年間は引っ越しをすることができなくなりました。「数学セミナー」については僕は詳しくは知らないので郵送で届くのを待つまででしょう。

数学の本については、いくつかの本の中から自分で選べるみたいです。優先順位は金賞から順番にでした。僕は優柔不断な性格なので少しばかり迷いましたが、この本を選びました。

https://lh3.googleusercontent.com/6rxRyLCZBqPX155BjfduFHAszF63IzSzigL4KVAj7A7fLdbQs5UpXTpMFlrRarsZ1XtflkI1OSs2II4hEhMu9L67sg=s256

僕が選んだのはこの本です。頑張って読んでみようと思います。

 

自分の解答について

自慢話はここまでにしておいて、今回僕が提出した問題の解答と解説を公開したいと思っています。というかそれがこの記事を書いた本当の理由です。ガロア祭の懇親会ではあまり懸賞問題について語ることができなかったため、ネットで語ろうと思ったというわけであります。問題については直接pdfを上げていいのか微妙だったので、ガロア祭のサイトから見てください。ちなみに僕が解答を送った問題は5つ(問1,問3,問4,問5,問7)です。

問1

Galois2018-1.pdf - Google ドライブ

実数の部分集合*1に自明でない順序を構成できるのかという問題です。もちろん構成するにあたってはいくつかのルールを満たしていなくてはいけない。そして現在の縛り状況のもとで考察を深めていくと、有理数の範囲内では自明な順序と同じでなくてはいけなくなる。

つまり自明でない順序を構成しようとするとき、無理数の範囲にまで{A}を広げて定義しなくてはいけない。

この問題は講演で解答が紹介されていましたが、{\mathbb{Q}}-ベクトル空間の話に持っていくらしいですね…解答では線形写像での話にまでは持っていくことができていて、さらに有限の範囲内ならば拡張ができるだろう。というような感じで締められています。{\mathbb{R}}有理数体上での無限次元ベクトル空間とみなしたとき、選択公理を認めると基底が構成できるので、そこから自明でない線形写像が構成できるらしいです。選択公理の部分はよくわかっていないのですが、ベクトル空間であるということまで踏み込めなかったのは少し残念に思っています。*2

問2

上半連続な関数の列についての問題です。何もわからなかったので公開できるものはありません…

問3

Galois2018-3.pdf - Google ドライブ

{a(n)}{n}の最大の素因子としたとき、{\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{na(n)}}が収束することを示せという問題です。具体的にどのような値に収束するかは分かりようがないため何か収束するもので上から抑えるというのが基本的な戦略になるでしょう。そしてこのような議論をやってよかったのかはよく分かっていないのですが、*3素数{p}を与えたとき、{a(n)=p}となる{n}全体の総和を求めるという方針で解いています。すると以下のような式が出てくるのですが、({p_1,p_2,\ldots}素数の列です。)

$$\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{na(n)}=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{p_k^2}\prod_{i=1}^{k}\frac{p_i}{p_i-1}$$

{\prod_{i=1}^{k}\frac{p_i}{p_i-1}}がそもそも{k\to\infty}で発散してしまうため*4一筋縄ではいかないということになります。ただ方針自体は誤っていないと思っていたため、この素数の積表示の発散速度をインターネットで調べました。調べたところ、メルテンスっていう人が公式を発見していたらしいです。証明は理解するのが難しかったので、「メルテンスの第三定理より」と書いてしまっていますが… とにかくインターネットとは偉大なものですね。

メルテンスの定理 - Wikipedia

とにかく、積は{O(\log{p_k})}というスピードで発散するということが分かったらあとは簡単です。

$$\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\log{p_k}}{p_k^2}<\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\log{n}}{n^2}<\infty$$

がわかるので、めでたく収束することがわかりました。という感じです。

また、この解説はかなりかいつまんでいるので、詳細を知りたい人はpdfを参照してください。

問4

Galois2018-4.pdf - Google ドライブ

{n^2}人で{n}人対戦のゲームを{n+1}回やったとき総当たりにできるかという問題です。構成の具体例は表として書くのが辛いのでリンクのpdfを参照してください。この問題についてはpdfを見たという前提で書きます。

まずは{n=3}の場合について見ると、案外簡単に構成することができます。しかし{n=4}について考えてみると、意外とうまくいかない。対戦表については最初の2面は縦横それぞれに並べたものにしても一般性は失わない。よって大きく流れを決めるのは次の1面になります。その1面を{n=3}でやったように、「一つずつずらしていく」ように構成すると以下のようになります。

0 1 2 3
1 2 3 0
2 3 0 1
3 0 1 2

しかし試してみるとわかるように、このように三面を作ったあと、あまりもので四面と五面を構成しようと思うと、うまくいかない。僕もその時は{n=4}の場合では無理なのではないかと思っていました。そこで少しばかり発想を変換することにしました。

このような表は、いわゆる群{\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}}での掛け算表になっているというように思ったわけです。つまり下の表みたいになるということです。

+ 0 1 2 3
0 0 1 2 3
1 1 2 3 0
2 2 3 0 1
3 3 0 1 2

 このような場合ではうまく行かなかった。しかし位数4の群は他にも{(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^2}があるではないか。*5当時は群という発想に至ったのはただの気まぐれで本当にうまくいくかどうかはわからなかった。とりあえずやってみるかという感じで構成したというわけです。{(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^2}での掛け算表は以下のようになります。

+ 0 1 2 3
0 0 1 2 3
1 1 0 3 2
2 2 3 0 1
3 3 2 1 0

このように組んだとき、なんとうまくいってしまったのです。群がヒントであるという手がかりを掴むことができたため、有限体での議論に発展させることができて、{n}素数の整数乗であるとき(つまり、位数{n}の有限体が存在するとき!)での存在を構成することには成功しました。

しかし素数の整数乗であるときに可能というのはあくまで十分条件であることしか示せていません。たとえば{n=6}のときではできるのか?という問題については解けていません。実際に構成することもできず、不可能だとしてもその証明もできず…という感じになりこれで考察は止まりました。(素数の整数乗は必要十分条件であると予想しています。){n=6}などの場合についてできるのかという問題についても、今後考えていけたらなと思っています。

 

追記(2018年11月12日)

数学セミナー2018年12月号42~44ページに作問者による解説が載っていました。それによると{n}素数の整数乗でないときにできるかどうかは未解決問題であるみたいです。*6ガロア祭とは”本物”を発掘するための大会だったのでしょうかね

問5

正多角形の頂点上に数字を配置する問題です。比較的とっつきやすい(1),(2),(3)に取り組んであとは何も考察できていません。{n=7,11,13}の場合不可能らしいですね。7以上の素数では無理ということなのでしょうか?まあどうにせよ何も考えることができなかったので真実は闇の中ですが…*7

(1)

n個に輪になったものからk個(1≦k≦n-1)選ぶ場合の数は始点の位置だけ見ればいいのでn通りであり、n個選ぶ場合の数は1通りなので、合計は{n(n-1)+1=n^2-n+1}通り。

(2)

全パターン列挙して数えてみればいいでしょう。うまい具合にすべての数が出てきます。

(3)

n=3:[1,2,4]

n=4:[1,2,6,4]

n=5:[1,5,2,10,3]

実際にそうなってるかは自分で確かめてください。

(4)

虚無です。何か考察したという人は教えてください。(そもそも不可能であるってどうやって示せばいいのでしょうか…)

問6

ごめんなさい。僕には問題文の意味すら理解することができませんでした…

部分位相・Hausdorff・離散部分集合などといった言葉がわからないため問題に答えることができませんでした。将来的にはこれらの言葉の意味が理解できるようになってさらに使いこなせるように慣れればなと思うばかりです。

問7

ラマヌジャンに挑戦」というパワーワードが出たと少し話題になっていましたね。これはWolframAlphaで遊べばよかったのでしょうか?我々はコンピュータを持っているという点でラマヌジャンに差をつけることができたのでしょうか?とりあえず僕が解答に出した式は次の3つです。*8

$$\sqrt{2}+\sqrt{3}\approx\pi$$

これはそれなりに有名なやつですね。他の人も同じものを書いていたのかもしれません。

$$\tan{(e)}\approx-\frac{41}{91}$$

これは自分でもお気に入りのやつです。tan(e)から出発していろいろ試行錯誤して調整しました。Wolfram Alphaには感謝です。

$$\sqrt[3]{31+\frac{1}{159}}\approx\pi$$

実は分母は159ではなく160にしたほうがより正確になるのですがあえて159にしました。円周率は3.14159...と続くので桁の数字によって近似できるのは面白いと思ったからです。さらに桁の数字を追加して3.14159265358979...まで行った式も考えましたが、使った桁数の割に精度がよろしくなかったためボツにしました。*9

最後に

今回のガロア祭はかなり時間を使って考えた上に、自分の最大限を出し切ったため、この上でもし自分より優秀な成績の人がいた場合、その人には絶対に勝てないと一生崇め奉るつもりでいました。(結局崇め奉る人はいなくなりましたが…)

まあとにかく、これからも数学についていろいろ精進していきたいと思っています!ということでこの記事を終わらせたいと思います。最後まで見てくださってありがとうございました。

*1:問題文にも書いてありますが、その部分集合Aは0,1が含まれていることと、和と差について閉じている必要があります。

*2:ちなみに順序同型を除いた場合実数に定義される順序は一通りしかないらしいです。

*3:級数の足す順番をむやみに変えていいのかという疑問がありました。でも問題が発生するのは条件収束するときで、この級数は正項級数であるため、その心配はないと考えて押し切っています。

*4:ゼータ関数オイラー積表示を考えれば調和級数として発散することがわかります。

*5:同型なものは同じとみなした上で2つであるということです。

*6:未解決と言っても、小さいnに関してはコンピュータによる総当たりで存在しないことがわかっているみたいです。

*7:n=7のときでも数字の合計は43なので、数の選び方は高々{{}_{49}C_{6}\cdot 7! \approx 7.04\times 10^{10}}通りなので、全探索が現実的な時間で終わるのでやれば存在しないこともわかるような気がしますが…これでは面白くないですね。ちなみにn=11の場合一秒間に{10^9}回動かせるプログラムでも概算で6万年ほどかかります。効率的なアルゴリズムを見つければ話は別ですが…

*8:余談ですが、プログラムを走らせてさまざまな式を自動で比較して近似式を自動で探索しようと試みたことがありましたが、{x^{\log{y}}}{y^{\log{x}}}に近似されるというような自明な結果が出てしまいその計画は無事頓挫しました。

*9:また、どこに4が行ってしまったのかということは気にしてはいけません()