L^p空間の包含関係

はじめに

普通このような内容は「数学についていろいろ解説するブログ」に書きそうだが、以下の内容は「解説」というより「考察」に近いのでここに投下することにする。(棲み分け基準が未だにガバっているが気にしてはいけない)

導入

L^p空間とは{(\Omega,\mathcal{F},\mu)}上で定義された{\int_\Omega |f|^pd\mu\lt \infty}なる可測関数{f:\Omega\to\mathbb{R}}の集合に対してノルム{||f||_p=\left(\int_\Omega|f|^pd\mu\right)^{1/p}}を定めたものである。*1

L^p空間には一般には包含関係はない。{\mu(\Omega)\lt\infty}ならヘルダーの不等式を適用することによって、{p\lt q}のときに{||f||_p\leq C||f||_q}が言えるため、{L^q(\Omega)\subset L^p(\Omega)}が言える。しかし{\mu(\Omega)=\infty}のときにはこのような性質は言えない。例えば{\Omega=\mathbb{R}}のときには

{f(x)=\frac{1}{\sqrt{x^2+1}}}{L^2(\mathbb{R})}だが{L^1(\mathbb{R})}ではない

{f(x)=\frac{1}{\sqrt{|x|}}\mathbb{1}_{(-1,1)}(x)}{L^1(\mathbb{R})}だが{L^2(\mathbb{R})}ではない

といった感じである。関数{f}{L^1,L^2,L^\infty}のどれかに属しているかどうかは{2^3=8}通りあるが、その8通りそれぞれに対応する関数は存在するだろうかと考えたわけである。すると{L^1}かつ{L^\infty}であって{L^2}でないような関数が思いつかなかったので、もしやと思って証明することにした。

一般の場合での証明

一般に{1\leq p\lt q\lt r\leq \infty}を仮定したときに、{L^p(\Omega)\cap L^r(\Omega)\subset L^q(\Omega)}が言えそうな気がしたので証明してみる

これが示せれば、特殊な場合として{L^1(\Omega)\cap L^\infty(\Omega)\subset L^2(\Omega)}が言える。

無限の場合が怖いので{r=\infty}かそうでないかで場合分けする。

 

{r=\infty}の場合

{f:\mathbb{\Omega}\to\mathbb{R}}{L^p}かつ{L^\infty}と仮定する。

このとき、{A=\{x\in\Omega|f(x)\leq 1\},B=\{x\in\Omega|f(x)\gt 1\}}とすると、(ここで{A,B}{f}が可測関数であることから{A,B\in\mathcal{F}}である。)

{\int_\Omega|f|^qd\mu=\int_A|f|^qd\mu+\int_B|f|^qd\mu}

{\leq \int_A |f|^pd\mu+\mu(B)\mathrm{esssup}_{x\in\Omega}|f(x)|^q}

となる。ここで、{f}{L^p}であることから、{\mu(B)\lt\infty}であり、{\int_A |f|^pd\mu\leq \int_\Omega |f|^pd\mu=||f||_p\lt\infty}である。

また、{f}{L^\infty}であることから、{\mathrm{esssup}_{x\in\Omega}|f(x)|^q=M^q\lt\infty}が言える。

よってもとの式は有限値を取る。特に{\int_\mathbb{R}|f|^qd\mu\lt\infty}が言える。結局{f}{L^q}の元となる。つまり

{L^p(\Omega)\cap L^\infty(\Omega) \subset L^q(\Omega)}

となる。

 

{r\lt\infty}の場合

{s=\frac{r-p}{r-q},t=\frac{p-r}{p-q}}とすると、{\frac{p}{s}+\frac{r}{t}=q,\frac{1}{s}+\frac{1}{t}=1}が成立する。このとき、

{\int_\Omega |f|^qd\mu=\int_\Omega |f|^{p/s+r/t}d\mu}

ヘルダーの不等式より、

{\leq \left(\int_\Omega |f|^{\frac{p}{s}\cdot s}d\mu\right)^{1/s}\left(\int_\Omega |f|^{\frac{r}{t}\cdot t}d\mu\right)^{1/t}}

{=\left(\int_\Omega |f|^p d\mu\right)^{1/s}\left(\int_\Omega |f|^rd\mu\right)^{1/t}}

 {={||f||_p}^{p/s}\cdot {||f||_r}^{r/t}\lt\infty}

となる。

新しい記号の定義

既に誰かが同じようなことを考えているかもしれないが、とりあえず

{f\in \cup_{p\in [1,\infty]}L^p(\Omega):=\mathcal{L}(\Omega)}に対して、

{L(f):=\{p\in [1,\infty]|f\in L^p(\Omega)\}}と定義する。

 先程示したとおり、{p,q\in L(f)}ならば{[p,q]\subset L(f)}となる。よって

{\mathrm{Linf}(f)=\inf L(f)},{\mathrm{Lsup}(f)=\sup L(f)}

としてみると、{\mathrm{Linf}(f)\lt q\lt \mathrm{Lsup}(f)}のときに、上限と下限の定義より{\mathrm{Linf}(f)\leq p\lt q\lt r\leq \mathrm{Lsup}(f)}となるような{p,r\in L(f)}が存在するため、{q\in L(f)}となる。

結局{L(f)}は連結な区間となる。

具体例

ここでは特筆のない限り{\mathbb{R}}上のルベーグ測度で考える。

 

{\alpha,\beta}を正の実数として{f(x)=|x|^{-\alpha}(1+x^2)^{-\beta},\Omega=\mathbb{R}},{\mu}ルベーグ測度とする。

この関数は{x\to 0}{|f(x)|^p=O(1/|x|^{\alpha p})}であり、{|x|\to\infty}{|f(x)|=O(1/|x|^{(\alpha+2\beta)p})}となる。よって{|f|^p}{\mathbb{R}}上可積分であるための必要十分条件

{\alpha p\lt 1}かつ{(\alpha+2\beta) p\gt 1}である。

よってこのとき、{L(f)=\left(\frac{1}{\alpha+2\beta},\frac{1}{\alpha}\right)\cap[1,\infty]}

となる。

{1\leq a\leq b\leq \infty}に対して{\alpha=\frac{1}{b},\beta=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{a}-\frac{1}{b}\right)}

とすれば、{L(f)=(a,b)}となるため、任意の開区間{(a,b)}に対して{L(f)=(a,b)}となるような関数{f}が存在することになる。

 

{0\lt \alpha\lt 1}のときに{f(x)=1/|x|^{\alpha}\mathbb{1}_{(-1,1)}(x)}とすると

{\alpha p\lt 1}ならば{f \in L^p(\mathbb{R})}となる。よってこのとき、

{L(f)=[1,1/\alpha)}となる。

 

{f(x)=\frac{1}{{(1+x^2)}^\beta}}とおくと、{\beta p\gt 1}ならば{f \in L^p(\mathbb{R}}となる。よってこのとき、{L(f)=(1/\beta,\infty]}となる。

 

{f(x)=e^{-x^2/2}}とおくと任意の{p\in [1,\infty]}に対して{f \in L^p(\mathbb{R})}となるため、{L(f)=[1,\infty]}となる。

 

{\Omega=(0,\infty)}として、{\mu(A)=\int_A e^{-x}m(dx)}とする。(ただし{m}ルベーグ測度)

このとき、{f(x)=x}とおくと、{p\lt \infty}のときに{\int_\Omega |f|^pd\mu=\Gamma(p+1)}となるため{f\in L^p(\Omega)}となるが、有界ではないため{L^\infty}ではない。よって{L(f)=[1,\infty)}となる。

 

{\Omega=(0,\infty)},{\alpha}を2以上の正の実数として、{\mu(A)=\int_A x^{-\alpha}e^{-x}m(dx)}とする。(ただし{m}ルベーグ測度)

このとき、{f(x)=x}とおくと、{p\lt \infty}のときに{\int_\Omega |f|^pd\mu=\int_{0}^{\infty}x^{p-\alpha}e^{-x}dx}となるため{f\in L^p(\Omega)}となるためには{p\gt \alpha-1}が必要十分である。また有界ではないため{L^\infty}ではない。よって{L(f)=(\alpha-1,\infty)}となる。

 

L(f)の形

今の所{L(f)}の形の候補としては以下のようになる。ただし{1\leq a\leq b\leq \infty}である。

  • {\left(a,b\right)}
  • {\left[a,b\right)}
  • {\left(a,b\right]}
  • {\left[a,b\right]}

未解決なこと

多分{L(f)}は開区間、つまり{L(f)}{[1,\infty],[1,\infty),[1,b),(a,\infty],(a,\infty),(a,b)}のどれかの形になるのではと思ったのだけど確証がない。(注:ここで、{1\leq a\leq b\lt \infty}とする)

*1:ほとんど至るところで一致に対して同値関係を定めて、その同値類で割る。そうしないとノルムの性質を満たしてくれない。そこは本筋にあまり影響しないのでかいつまんで説明する