数学夏祭り例題(数値計算編)

出典

https://mathmatsuri.org/

 

概要

例題では、{\log{\frac{\pi}{2}}}を計算する場面がある。このイベントでは電卓の使用は禁止されていないのでこの値が求まれば電卓で計算して答えを出せば良いのだが、手計算で求める手法を考えてみることにした。

手計算と言っても、Wolfram Alphaをぶん回していることは気にしてはいけない

また、このようなテクニックは「数学クソ問題bot解答bot」さんがよく使っている手法です。

 

目標

$$\log\frac{\pi}{2}=\log\frac{\pi}{3}+\log{\frac{3}{2}}$$

として、各項を評価することを考える。79倍したものの整数部分を求めるということなので、小数点以下2桁~3桁の精度で評価したい。

3/2の下準備

$$\frac{3}{2}=\left(\frac{49}{48}\right)^a\left(\frac{50}{49}\right)^b\left(\frac{64}{63}\right)^c\left(\frac{81}{80}\right)^d$$

が成り立つような{(a,b,c,d)}を求めることを考える。

これは結局、

$$\frac{3}{2}=2^{-4a+b+6c-4d}3^{-a-2c+4d}5^{2b-d}7^{2a-2b-c}$$

ということなので、以下の連立方程式を解けば良いことになる。

$$\begin{pmatrix}-4&1&6&-4\\-1&0&-2&4\\0&2&0&-1\\2&-2&-1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\b\\c\\d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1\\1\\0\\0\end{pmatrix}$$

これはWolfram Alphaに突っ込めば解いてくれる。

 

https://www.wolframalpha.com/input/?i=%5B%5B-4%2C1%2C6%2C-4%5D%2C%5B-1%2C0%2C-2%2C4%5D%2C%5B0%2C2%2C0%2C-1%5D%2C%5B2%2C-2%2C-1%2C0%5D%5D*%5B%5Ba%5D%2C%5Bb%5D%2C%5Bc%5D%2C%5Bd%5D%5D%3D%5B%5B-1%5D%2C%5B1%5D%2C%5B0%5D%2C%5B0%5D%5D&lang=ja

 

Wolfram Alphaによると、{(a,b,c,d)=(7,3,8,6)}となるようである。

よって、以下の等式が成り立つ。

$$\log{\frac{3}{2}}=7\log{\frac{49}{48}}+3\log{\frac{50}{49}}+8\log{\frac{64}{63}}+6\log{\frac{81}{80}}$$

 

円周率の評価

これはこの手の問題を解くときに頻出のテクニックである。

Wikipediaにも記事が存在する→円周率が22/7より小さいことの証明 - Wikipedia

$$\frac{1}{2}\int_{0}^{1}x^4(1-x)^4dx<\int_{0}^{1}\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}dx<\int_{0}^{1}x^4(1-x)^4dx$$

という評価により、結局

$$\frac{1979}{630}=\frac{22}{7}-\frac{1}{630}<\pi<\frac{22}{7}-\frac{1}{1260}=\frac{3959}{1260}$$

となる。数値で見ると

$$3.1412<\pi<3.1421$$

となっている。誤差は0.0009程度なので、目標の精度は達成している。

 

証明完了?

 logを評価する際には以下の不等式が頻出である。

$$\frac{1}{n+1}\lt\log{\left(1+\frac{1}{n}\right)}\lt\frac{1}{n}$$

すると以下のようになる。

$$\frac{7}{49}+\frac{3}{50}+\frac{8}{64}+\frac{6}{81}\lt7\log{\frac{49}{48}}+3\log{\frac{50}{49}}+8\log{\frac{64}{63}}+6\log{\frac{81}{80}}\lt\frac{7}{48}+\frac{3}{49}+\frac{8}{63}+\frac{6}{80}$$

$$\frac{7}{49}+\frac{3}{50}+\frac{8}{64}+\frac{6}{81}\lt\log{\frac{3}{2}}\lt\frac{7}{48}+\frac{3}{49}+\frac{8}{63}+\frac{6}{80}$$

すると、

$$\frac{15193}{37800}\lt\log{\frac{3}{2}}\lt\frac{14431}{35280}$$

 となる。ここで、この評価の誤差は約0.0071である。

 

log(π/3)について評価すると以下のようになる。

$$\frac{0.1412}{3.1412}\lt\log{\frac{\pi}{3}}\lt \frac{0.1421}{3}$$

ここで、この評価の誤差は約0.0095である。

すると、全体の評価の誤差は約0.0095+約0.0071=約0.0166

これは約1/61であるため、残念ながら精度が足りない。

実際、このまま計算を続けると、

$$35.3037\lt 79\log\frac{\pi}{2}\lt 36.0563$$

となるため、整数部分が35と36のどっちなのかが不明なままである。

より正確に評価するには

前述のlogの評価で、もしもっと精度が欲しい場合は以下の不等式が使われる。

$$2x+\frac{2}{3}\cdot x^3\lt\log{\left(\frac{1+x}{1-x}\right)}\lt 2x+\frac{2}{3}\cdot\frac{x^3}{1-x^2}$$

 証明は{\log{\left(\frac{1+x}{1-x}\right)}}テイラー展開を考えればよい。

前述の式ではテイラー展開の1次の係数まで一致していたが、この式はテイラー展開の4次まで一致している。*1

すると、

$$\log{\left(\frac{1+\frac{1}{2n+1}}{1-\frac{1}{2n+1}}\right)}=\log\left(1+\frac{1}{n}\right)$$

であることから、以下のようになる。

 $$7\left(\frac{2}{97}+\frac{2}{3\cdot 97^3}\right)+3\left(\frac{2}{99}+\frac{2}{3\cdot 99^3}\right)+8\left(\frac{2}{127}+\frac{2}{3\cdot 127^3}\right)+6\left(\frac{2}{161}+\frac{2}{3\cdot161^3}\right)\lt\log{\frac{3}{2}}$$

 $$\frac{3069467676412530153237088}{7570238768655741849476421}\lt\log{\frac{3}{2}}$$

$$0.405465108\lt\log{\frac{3}{2}}$$

  $$7\left(\frac{2}{97}+\frac{2}{3\cdot (97^3-97)}\right)+3\left(\frac{2}{99}+\frac{2}{3\cdot (99^3-99)}\right)+8\left(\frac{2}{127}+\frac{2}{3\cdot (127^3-127)}\right)+6\left(\frac{2}{161}+\frac{2}{3\cdot (161^3-161)}\right)\gt\log{\frac{3}{2}}$$

 $$\frac{4012550858669}{9896168066400}\gt\log{\frac{3}{2}}$$

$$0.405465109\gt\log{\frac{3}{2}}$$

となる。

一方、{\log(\pi/3)}については、

$$\log\frac{3.1412}{3}\lt\log\frac{\pi}{3}\lt\log\frac{3.1421}{3}$$

 $$\log\frac{3.1421}{3}\lt 2x+\frac{2}{3}\cdot\frac{x^3}{1-x^2}\lt 0.0462790793$$

(注:{x=\frac{1421}{61421}})

$$\log\frac{3.1412}{3}\gt 2x+\frac{2}{3}x^3\gt 0.045992601$$

(注:{x=\frac{353}{15353}})

となる。結局

$$0.405465108+0.045992601\lt\log\frac{\pi}{2}\lt 0.405465109+0.0462790793$$

となるため

$$0.451457709\lt\log\frac{\pi}{2}\lt 0.4517441883$$

となる。つまり

$$0.4514\lt\log\frac{\pi}{2}\lt 0.4518$$

であり、79倍すると

$$35.6606\lt 79\log\frac{\pi}{2}\lt 35.6922$$

 となる。よって整数部分が35であることが証明できた。

余談

{\log\frac{3}{2}}を小数点以下8桁まで評価できているのにも関わらず最終的な評価は小数点以下3桁までしか評価できていない。どこが足を引っ張っているかというと円周率の評価である。{3.1412\lt \pi\lt 3.1421}だけで小数点以下3桁の誤差がある。これを踏まえてもっと正確な評価を考えてみる。

 

まずは円周率をどうやって評価するかである。(ある程度暗記している人もいるかもしれないが)

円周率が22/7より小さいことの証明 - Wikipedia」によると、

$$\frac{1}{2}\int_{0}^{1}x^{16}(1-x)^{16}dx\lt\int_{0}^{1}\frac{x^{16}(1-x)^{16}}{1+x^2}dx\lt\int_{0}^{1}x^{16}(1-x)^{16}dx$$

という積分を計算することで、

$$3.14159265358\lt\pi\lt3.14159265359$$

という評価が得られるらしい。

 

すると、

 $$\log\frac{3.14159265359}{3}\lt 2x+\frac{2}{3}\cdot\frac{x^3}{1-x^2}\lt 0.046117599$$

(注:{x=\frac{14159265359}{614159265359}})

$$\log\frac{3.14159265358}{3}\gt 2x+\frac{2}{3}x^3\gt 0.046117594$$

(注:{x=\frac{7079632679}{307079632679}})

より、

$$0.405465108+0.046117594\lt\log\frac{\pi}{2}\lt 0.405465109+0.046117599$$

$$0.451582702\lt\log{\frac{\pi}{2}}\lt 0.451582707$$

という評価が得られる。この評価は小数点以下8桁まで一致している。

このような手法を使うことで、(理論上)手計算で値を求めることが可能となる。*2

結論

電卓は神

*1:{\log{\frac{1+x}{1-x}}}が奇関数であることから、テイラー展開の偶数次の係数が0になるため、評価がしやすくなる。

*2:理論上(現実的とは言ってない)