一般化して考える(数学夏祭り問3)

出典

攻略法

冒頭に出てくる{T_n(x)}というものはチェビシェフ多項式と呼ばれているものである。それについての知識があるかどうかが重要なポイントである。
ちなみに以下のプログラムで解ける

import math
K=1
for k in range(1,41):
    K=K*math.cos((2*k-1)*math.pi/79)
print(abs(math.log(abs(K))/math.log(2)))

解答

79という数字が扱いづらいので一般化する。ここで79が奇数であることは使いそうなので以下のようにする。
$$K=\prod_{k=1}^{m+1}\cos\left(\frac{2k-1}{2m+1}\pi\right)$$
ただし、{m}は正の整数である。ここでは{m=39}の場合を考えている。
ここで、{k=m+1}のとき、{\cos\left(\frac{2(m+1)-1}{2m+1}\pi\right)=\cos\left(\frac{2m+1}{2m+1}\pi\right)=-1}である。ここでは{|K|}の絶対値を扱っているため、符号は無視して構わない。すると以下のようになる。
$$|K|=\prod_{k=1}^{m}\cos\left(\frac{2k-1}{2m+1}\pi\right)=\prod_{k=0}^{m - 1}\cos\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)$$
以下の値についても考えてみる。
$$\prod_{k=m+1}^{2m}\cos\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)=\prod_{k=m+1}^{2m}\cos\left(\frac{(4m+2)-(2k+1)}{2m+1}\pi\right)$$
$$=\prod_{k=m+1}^{2m}\cos\left(\frac{2(2m-k)+1}{2m+1}\pi\right)=\prod_{k=0}^{m - 1}\cos\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)=K$$

結局、以下のようになる。
$$K^2=-\prod_{k=0}^{2m}\cos\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)$$

ここでようやく{T_n(x)}という多項式が登場する。
以降では、便宜上以下の表記を使用する。
$$\theta_k=\frac{2k+1}{2m+1}\pi\quad (k=0,\ldots,2m)$$
...と解答を続ける前に一旦チェビシェフ多項式の性質について説明する

チェビシェフ多項式の性質

Wikipediaに詳細な説明が書いてあるが、ここでは以下の性質を利用する。

  1. チェビシェフ多項式の漸化式
  2. チェビシェフ多項式の次数
  3. チェビシェフ多項式の最高次の係数
  4. チェビシェフ多項式の定数項

1.について
和積公式より以下の性質が成り立つ。
$$\cos{( (n+1)\theta)}+\cos{( (n-1)\theta)}=2\cos{\theta}\cos{(n\theta)}$$
より、{\cos{\theta}=x}とすると以下のようになる。
$$T_{n+1}(x)+T_{n-1}(x)=2xT_n(x)$$
$$T_{n+1}(x)=2xT_n(x)-T_{n-1}(x)$$

2.について
{T_n(x)}{n}多項式である。これは数学的帰納法からわかる。
{T_{n-1}(x),T_n(x)}がそれぞれ{n-1,n}多項式であるならば、
{T_{n-1(x)}}{n-1}次であり、{2xT_n(x)}{n+1}次である。
よって{T_{n+1}(x)=2xT_n(x)-T_{n-1}x}となるため、{T_{n+1}(x)}{n}多項式となる。*1

3.について
{n\gt 0}のとき、{T_n(x)}の最高次の係数は{2^{n-1}}となる。
これも同じく帰納法で証明できる。{T_{n-1}(x),T_n(x)}で条件を満たしているならば、
$$T_{n+1}(x)=2x\left(2^{n-1}x^n+\cdots\right)+\left(2^{n-2}x^{n-1}+\cdots\right)=2^{n}x^{n+1}+\cdots$$
となる。第二項については最高次の係数に影響を与えないため無視して構わない。

4.について
{T_n(0)}を考えればOK。これは{\theta=\frac{\pi}{2}}の場合に対応する。
よって
$$T_n(0)=\cos{\left(\frac{n\pi}{2}\right)}$$
となる。

解答(続き)

$$T_{2m+1}(\cos{\theta_k})=\cos{( (2m+1)\theta_k)}=\cos{( (2k+1)\pi)}=\cos{\pi}=-1$$
となっている。よって方程式{T_{2m+1}(x)=-1}{x=\cos{\theta_k}}を解に持つ。
ここで、{\cos{\theta_k}=\cos{\theta_{2m-k}}(k=0,\ldots,m-1)}であるため、*2現時点で{m+1}個({\cos{\theta_k}(k=0,\ldots,m)})だけ解が確定している。
ここで、{T_{2m+1}(\cos{\theta})=\cos{( (2m+1)\theta)}}{\theta}について微分することで
$$-T_{2m+1}'(\cos{\theta})\sin{\theta}=-(2m+1)\sin{( (2m+1)\theta)}$$
となっている。これに{\theta=\theta_k(k=0,\ldots,m-1)}を代入して整理すると
$$T_{2m+1}'(\cos{\theta_k})=\frac{2m+1}{\sin{\theta_k}}\sin{( (2k+1)\pi)}=0$$
となっている。*3よって{T_{2m+1}(\cos{\theta_k})+1=T_{2m+1}'(\cos{\theta_k})=0}であるため、{T_{2m+1}(x)+1}{(x-\cos{\theta_k})^2=(x-\cos{\theta_k})(x-\cos{\theta_{2m-k}})(k=0,\ldots,m-1)}を因数に含むことがわかる。よって、以下のように因数分解されることがわかる。
$$T_{2m+1}(x)+1=A\prod_{k=0}^{2m}(x-\cos{\theta_k})$$
ここで、

{T_{2m+1}(x)+1}の最高次の係数・・・{2^{2m}}
{T_{2m+1}(x)+1}の定数項・・・{\cos{\frac{(2m+1)\pi}{2}}+1=1}

となっているため、{A=2^{2m}}である。よって
$$T_{2m+1}(x)+1=2^{2m}\prod_{k=0}^{2m}(x-\cos{\theta_k})$$
となる。これの定数項を比べると
$$1=2^{2m}\prod_{k=0}^{2m}(-1)\cos{\theta_k}$$
よって
$$\prod_{k=0}^{2m}\cos{\theta_k}=\frac{-1}{2^{2m}}$$
となる。
よって結局
$$K^2=-\prod_{k=0}^{2m}\cos{\theta_k}=\frac{1}{2^{2m}}$$

であるため、
$$K=\pm \frac{1}{2^m}$$
となる。
ここでは、{K}の絶対値のみを考えればいいため、符号はどうでもいい。
結局、
$$|\log_2|K||=\left|\log_2\left(\frac{1}{2^m}\right)\right|=|-m|=m $$
となる。

つまり、{m=39}であることから最終的に提出すべき答えは
$$39$$
となる。問題文の式には床関数があるが、この中身は厳密に整数となるため考慮する必要はない。

余談(極限)

結局、以下のような等式が成り立つ。
$$\prod_{k=0}^{m - 1}\left|\cos{\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)}\right|=\frac{1}{2^m}$$
logをとって整理すると以下のようになる。
$$\frac{1}{m}\sum_{k=0}^{m - 1}\log\left|\cos{\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)}\right|=-\log{2}$$
ここで、{0\leq k\leq m - 1}ならば
$$\frac{k}{m}\leq \frac{2k+1}{2m+1}\leq \frac{k+1}{m}$$
となっている。これはリーマン和を考えると以下のようになる。
$$\lim_{m\to\infty}\frac{1}{m}\sum_{k=0}^{m - 1}\log\left|\cos{\left(\frac{2k+1}{2m+1}\pi\right)}\right|=\int_{0}^{1}\log{|\cos{(\pi x)}|}dx$$
この関数は連続であるためリーマン可積分である。よってこの極限操作は正当化される。
結局、以下のような等式が成り立つ。
$$\int_{0}^{1}\log{|\cos{(\pi x)}|}dx=-\log{2}$$
変数変換して整理すると以下のようになる。
$$\int_{0}^{\pi}\log{|\cos{x}|}dx=-\pi\log{2}$$
$$\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log{\cos{x}}dx=-\frac{\pi}{2}\log{2}$$

*1:{2xT_n(x)}{n+1}次の項が消されることはない。これは{T_{n-1}(x)}{n+1}次未満であるため、どう頑張っても{x^{n+1}}の係数に影響を与えることはないためである。

*2:{0\leq i\lt j\leq m-1}ならば{\cos{\theta_i}\neq \cos{\theta_j}}が成り立つ。

*3:{0\leq k\leq m-1}ならば{0\lt \theta_k\lt \pi}より{\sin{\theta_k}\neq 0}となっている。一方、{\sin{\theta_m}=0}である。